第12章 全て元通り
「さ、悟!」
椿の声を聞くと、悟はゆっくりと振り返った。
悟と目が合うと椿の肩が少し震えた。
確かに悟を呼び止めて伝えたいことがあるのに、悟の瞳を見た途端、椿は何を話せばいいのか分からなくなった。
唇を開いては閉じる椿を、悟も黙って見ていた。
やがて椿は感情が凪いだように、肩の力を抜いた。
「……なんでもないわ…」
椿は俯いて小さな声で言った。
その時、悟が舌打ちをすると、聞き取れないほど小さな暴言を吐いた。
悟は一歩椿に近付くと、その腕を取って自分の方へ引き寄せた。
椿はいきなりの悟の行動に体を強張らせたが、戸惑う暇もなく悟の手が椿の腰に回された。
そして自分が乗り込むはずだった車に、椿の体を押し入れた。
乱暴に押し込まれ、後部座席の硬い革のシートが椿の体を掠めた。
椿は小さな痛みよりも、乗り込んで来た悟の顔を見上げた。
「…なんなのお前…」
そう吐き捨てると、悟はもう一度椿の体を引き寄せ、そのまま唇を塞いだ。