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緋色の誓い

第7章 新たな道標



あの頃は恐怖を振り払うためだった。

斬られる恐怖。

死ぬ恐怖。

弱い自分を消したくて振り続けた。

だが、今は違う。

斗亜が恐れているのは、弱くなること。

守れなくなること。

そして京都で命を懸けて戦った、あの自分へ届かなくなること。

「(速さは落ちてはおらぬ)」

竹刀の音へ耳を澄ませる。

「(踏み込みも鋭い。太刀筋も乱れてはおらぬ。それでも本人には遅く感じるのでござろう)」

一度でも命を削る戦いを知ってしまえば、平穏の中で振る剣は重く感じる。

体が鈍ったのではない。

心が"あの速さ"を覚えてしまったのだ。

「(守る剣は…奪う剣より遥かに難しい)」

誰かを斬れば終わる剣ではない。

誰も死なせず、誰も失わず、自分も生き残らねばならない。

それが今、斗亜の歩む道。

だからこそ苦しい。

「(斗亜…その答えは、人を斬る速さの先には無いでござるよ)」

小さく息を吐く。

今はまだ言わない。

今言葉を掛けても、斗亜には届かない。

今の斗亜は、自分自身と戦っている。

その戦いだけは、誰にも代われない。

「朝餉は冷めてしまうでござるな」

苦笑が漏れる。

剣心は静かに居間へ歩き出した。

その背中へ、なおも竹刀の風切り音だけが追いかけてきた。

「斗亜ー!朝餉冷めるわよー!」

薫の声が道場まで響く。

返事はない。

シュッ。

シュッ。

返ってくるのは竹刀が空気を切る音だけだった。

弥彦が箸を持ったまま眉をひそめる。

「また始まったよ…」

左之助が味噌汁をすすりながら肩をすくめる。

「朝から飛ばしてんなぁ」

「でも飯くらい食わねぇとな」

薫がため息をつく。

「弥彦、呼んできて」

「えぇ、また俺?」

渋々立ち上がる。

道場の戸を開けた瞬間。

シュッ!!

鋭い風切り音が飛び込んできた。

「うわ…」

斗亜は中央で竹刀を振り続けていた。

畳には汗が点々と落ちている。

着物は背中まで濡れ、呼吸は乱れ肩は大きく上下している。

それでも止まらない。

まるで何かに追われるように。
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