第4章 因縁の残火
滝を見下ろす崖の上。
「剣心、斗亜。修行の前に一つ言っておく」
比古は静かに告げる。
「最後の奥義を会得すれば、お前らは俺に匹敵する強さを得るだろう。だがな、だからといって自惚れるな。お前一人の犠牲で守れるほど、明治という時代は軽くない。そして同じように、人一人の幸福も軽くはない」
比古の声が低く響く。
「お前がここで死ねば、ただ“会いたい”という想いだけで京都まで来た娘が、確実に不幸になる」
「師匠…まさか…」
斗亜は思わず目を見開いた。
「覚えておけ。どれほど強くなろうと、お前は一介の人間だ。仏にも修羅にもなる必要はない」
「話は終わりだ。始めるぞ」
比古は刀を抜く。
「おおおお!!!!」
二人は跳躍し、剣を交える。
「うわー、四十三のくせして昔と変わんねーな…」
ゴッ!!!
斗亜の頭に、鞘が容赦なく落ちた。
「いってー!!!!」
「聞こえてんだよ!」
比古は斗亜の胸倉を掴む。
「少しは黙って見てろ。あとでじっくり修行つけてやるからな」
「はーい…」
「ガキかお前は…」
そっぽを向く斗亜に、比古は呆れたように言った。
そして剣心へ視線を戻し、ふっと笑う。
「奥義の前に力試しして正解だったな。まさか、ここまで腕が鈍ってるとはな」
「時間が…ない…。こうしている間にも、皆に志々雄の手が伸びているかもしれないんだ…」
比古は素早く納刀し、斬りかかる。
剣心は逆刃刀で、それを受け止めた。
「一撃目が鞘…あれは鞘打ちから剣撃へ繋げる、もう一つの二段抜刀術…双龍閃・雷…兄貴、こんなに鈍ってたのか…」
比古の一撃をまともに受け、剣心は地面へ叩きつけられた。
「飛天御剣流最強の奥義を、その鈍った腕で会得できると思ったか!?このバカ弟子が!!まずは、この俺から一本取ってみろ。奥義の伝授はそれからだ。ほらどうした。わざわざ峰打ちにしてやったんだ。さっさと立て」
剣心は呼吸を乱し、痛む箇所を押さえながら、ふらつきつつも立ち上がる。
「ほれ。さっさとかかって来い。時間がないんだろ?グズグズしてると、大切な仲間が手遅れになるぜ」
剣心が歯を食いしばった。