第5章 【第四話】黒衣に宿る祈り
そう答えると、壁際にいたラビがひらひらと手を振った。
「いやぁ、怖ぇ怖ぇ。ユウにあんな返しできる奴、そうそういねぇさ」
「聞かれたことに答えただけよ」
「“試してみる?”は、答えっていうか喧嘩売ってるだろ」
「そう聞こえた?」
「聞こえた聞こえた」
ラビは楽しそうに笑いながら、こちらへ歩いてくる。
けれど、私の数歩手前で、その足は止まった。
視線が、先ほどまでレイピアのあった両手へ落ちる。
「……あれが、ティファのイノセンスなんだな」
「ええ」
「声で出して、声で形を保ってる?」
その問いに、私は僅かに目を細めた。
軽口の間へ挟まれたにしては、あまりに核心へ近い。
「どうして、そう思うの?」
「見てりゃ分かる」
ラビは軽く肩を竦める。
「刃がぶつかるたび、ティファの呼吸が変わってた。声を響かせてるわけじゃねぇのに、ずっと何かを繋いでるみたいだったから」
翠の瞳が、まっすぐ私を捉えている。
口元は笑っている。
けれど、その奥では、やはり何かが静かにこちらを測っていた。
「……よく見ているのね」
「そりゃ、興味ある相手のことは見るだろ?」
ラビはさらりと答える。
そして、まるで今までの鋭い観察などなかったかのように、ふっと笑みを深めた。
「それに、女の子の戦い方なら、なおさら見逃せねぇさ」
軽い言葉で覆い隠す。
本気で知ろうとしたことを、ただの口説き文句へ紛れ込ませるように。
私はもう、それを気のせいだとは思えなかった。
「……そう」