第39章 【第三十四話】約束を守るために
ぼやけた視界の向こう。
長い外套。
無精髭。
白い銃。
その姿を認識した瞬間、胸の奥で張り詰めていたものが、一気に崩れた。
「……し、ししょ……」
声にならない。
掠れた息だけが、喉から漏れる。
クロスは、いつの間にかティファと影の間へ立っていた。
その背後で、もう一つ、別の黒い影が這い寄る。
けれど、次の瞬間には銃声が響いた。
轟音と共に、影が霧ごと吹き飛ばされる。
クロスは振り返りもしなかった。
煙草の煙を吐き、ひどく面倒そうに舌打ちする。
「随分と厄介なのに目ぇ付けられてんな、お前は」
その言葉だけを落とし、ようやくこちらへ一瞥を寄越した。
鋭い目が、ティファの喉元と、血に濡れた手、それから崩れかけた空間を順に見る。
ほんの一瞬、師匠の眉が動いた。
「……最大解放まで使いやがったか」
叱るような声だった。
けれど、その奥に混じったものを確かめる前に、視界が大きく揺れた。
「ヴェ……イン……が……」
必死に声を出そうとする。
けれど、音にはならない。
クロスは小さく舌打ちし、膝をついた。
「喋んな。喉が潰れるぞ」
乱暴な言葉とは裏腹に、身体を抱き起こす腕は確かだった。
外套越しの体温が、遠のきかけた意識へ届いた。