第5章 【第四話】黒衣に宿る祈り
リナリーが勢いよく振り返る。
「ラビ!」
衝立の端から、赤い髪がひょこりと覗く。
ラビは悪びれる様子もなく、いつもの人懐こい笑みを浮かべていた。
「覗いてたわけじゃねぇさ。たまたま通りかかったら、訓練って聞こえただけで」
「今、衝立から顔を出したでしょう」
「それは……ちょっと興味が湧いたから?」
「同じことよ!」
リナリーの声に、ジョニーが苦笑する。
私は、ラビへ静かに視線を向けた。
昨日と変わらない、明るくて軽い表情。
けれど、“訓練”という言葉を口にした時だけ、その翠の瞳の奥へ、澄んだ冷たさが宿ったように見えた。
「ティファの戦い方、オレも見たいさ」
「……私の?」
「そりゃ気になんだろ。クロス元帥の弟子で、歌いながら二振りの剣を使うって聞いたらさ」
軽やかな声音。
けれど、その奥で響くものは、昨日の回廊で感じたものと同じだった。
楽しげに興味を示す少年の音。
その向こうで、得られる情報を一つも逃すまいとする、乾いた静けさ。
ただ好奇心が強いだけなのかもしれない。
けれど、彼の興味は時折、妙に温度が薄い。
私は、その違和感を表へ出さないまま、穏やかに答えた。
「見学するのは構わないけれど、あまり騒がないでね」
「お、許可出た」
ラビが嬉しそうに笑う。
「大人しく見てるさ。多分」
「最後の一言で、もう信用できないわ」
リナリーが呆れたように溜息を吐いた。