第5章 【第四話】黒衣に宿る祈り
採寸室と呼ぶには、少しだけ心許ない場所だった。
科学班のラボの一角を、背の高い衝立で仕切っただけの即席の空間。
向こう側では、紙束を抱えて駆け回る足音や、工具同士がぶつかる乾いた音が、絶えず響いていた。
「室長!今度はどこへ行ったんですか!」
切羽詰まったリーバー班長の声が、衝立の向こうから響いた。
「さ、さっき室長なら、リナリーの団服に新しい機能をつける案が浮かんだとか言って……」
慌てたように返したのは、タップの声だった。
「余計な案を練る前に、溜まってる書類を片付けろと言ってこい!」
続けて、何か重たい紙束が机へ叩きつけられる音がした。
私は肩へメジャーを当てられたまま、思わず小さく瞬きをする。
「……いつも、こんな感じなの?」
尋ねると、背後で寸法を確認していたジョニーが、困ったように笑った。
「今日はまだ穏やかな方だよ。室長が変な発明を完成させた日は、ラボ中が逃げ回ることになるから」
「兄さんったら……」
傍で見守っていたリナリーが、申し訳なさそうに額へ指を添える。
けれど、その表情には呆れだけではなく、どこか慣れた温かさが滲んでいた。
私はわずかに笑い、正面に置かれた鏡へ視線を戻した。
そこに映っているのは、師匠との旅で着慣れた軽装姿の自分だった。
長い移動にも修練にも耐えられるよう、装飾より動きやすさを優先した服。袖口にも裾にも、何度か繕った跡が残っている。
インドの砂埃の中で、アレンと何度も向き合った服。
夜の酒場で歌った帰り、熱の残る道を二人で歩いた時にも着ていた服。
それを脱ぎ、新しい場所の衣を纏う。
その意味を考えると、胸の奥が静かに重くなった。