第36章 【第三十一話】命を繋ぐ海
夜の海を裂くように、ラビが戻ってきた。
鉄槌の上で、ラビは巨大な結晶を抱えていた。
いや、抱えていたのはラビだけではなかった。
その傍には、見慣れない姿のAKUMAがいた。
丸みを帯びた奇妙な身体。
どこか人を食ったような声。
けれど、その腕の中にあるものを見た瞬間、船上の空気が凍り付いた。
「リナリー……?」
誰かが掠れた声で呟く。
結晶の中に、リナリーがいた。
傷だらけで。
目を閉じたまま。
まるで、透明な棺に閉じ込められているように。
「リナリーちゃん!」
アニタが弾かれたように駆け出した。
けれど、結晶へ近付いた瞬間、彼女の身体が大きく揺れる。
「っ……!」
その場に膝をつき、こめかみを押さえた。
「痛……っ、頭が……音が……っ」
アニタの顔が歪む。
まるで、見えない何かに内側から軋まされているみたいだった。
「いかん!」
ブックマンの鋭い声が飛ぶ。
「エクソシスト以外は近寄るな! イノセンスの気に当てられるぞ!」
船員達が一斉に足を止める。
ティファも息を呑む。
これは。
ただの結晶ではない。
リナリーを閉じ込めているあの光は、イノセンスの気配そのものだった。
ラビは結晶を甲板へ慎重に下ろす。
その顔に、いつもの軽さはなかった。