第35章 【第三十話】紅い雪の降る海
「次は貴方ね、リナリーちゃん」
「え?」
「その髪、整えてあげるわ」
リナリーが少し戸惑ったように瞬く。
けれどアニタは慣れた手つきで彼女を椅子へ座らせた。
長い黒髪を、優しく梳いていく。
「綺麗な髪ねぇ」
「そ、そんな……」
リナリーが少し照れたように俯く。
アニタの指が器用に髪を分け、いつもの位置で髪を結い上げていく。
やがて、左右へ流れる艶やかなツインテールが整えられ、その結び目へ小さな金の髪飾りが添えられた。
揺れるたび、控えめな金細工がきらりと光る。
「……これ」
アニタが、ふと髪飾りへ触れた。
「母の形見なんだけど、どうかしら?」
「えっ!?」
リナリーが目を丸くする。
「そ、そんな大事なもの、いいんですか!?」
アニタはくすりと笑った。
「私が十八になったら譲り受けるつもりだったんだけどね」
少しだけ、遠い目をする。
「その前に、母がAKUMAに殺されちゃったから」
静かな声だった。
「……なんだか、付けられなくなっちゃったの」
ティファは思わず、自分の手首へ触れた。
“形見”
その言葉の重さを、知っている。
手首には、母の形見である髪紐が結ばれていた。
ずっと目につく場所にあるように。
忘れないでいられるように。
リナリーがそっと髪飾りへ触れる。
「アニタさんのお母さんも……教団のサポーターだったんですよね?」