第31章 【第二十七話】黒檀の簪
朝日が町の屋根を淡く照らし始めた頃、宿の一階に置いてあった電話で、教団本部との連絡が取れた。
昨夜の湖で起きたこと。
ヴェインと名乗る男の出現。
クロス元帥の薬莢が残されたこと。
ブックマンが順を追って報告し、アレンは傍らでティムを掌に乗せたまま、じっと電話を見つめていた。
ティファは窓際へ立ち、まだ朝靄の残る町並みへ目を向ける。
昨夜、あれほど静かだった湖の気配は、ここからではもう感じ取れない。
けれど、喉の奥に残るざわつきだけは消えてくれなかった。
電話を終えたブックマンが受話器を置きかけた、その時だった。
受話器の向こうから、慌ただしい声が響く。
ブックマンの手が止まった。
「……何だと?」
部屋の空気が、一瞬で変わる。
アレンが顔を上げ、リナリーの表情も強張った。
ブックマンは受話器を耳へ当てたまま、低く問い返す。
「被害状況を、もう一度言え」
沈黙。
受話器の向こうから聞こえる声だけが、かすかに室内へ漏れている。
「……百四十八名」
ブックマンの声が、重く落ちた。
その数字だけが、室内へ沈んでいく。
リナリーが小さく息を呑んだ。
クロウリーの顔からも、血の気が引いていく。