第31章 【第二十七話】黒檀の簪
前方では、アレンがティムキャンピーを掌へ乗せ、何度も湖の方角を振り返っていた。
金色のゴーレムは、まだ落ち着かない様子で羽を震わせている。
「ティム……本当に、もう師匠を追えないんですか」
アレンの声が掠れる。
その手には、ヴェインが残していった薬莢が握られていた。
「ヴェインが何かした可能性もあるわ」
リナリーが静かに言った。
「何にせよ、夜のうちに無理に動いても得られるものは少ない」
ブックマンが低い声で告げる。
「町へ戻るぞ。明朝、本部へ連絡を入れる。クロスの足取りも、もう一度洗い直さねばならん」
「……はい」
アレンが答えた。
その声には焦りが滲んでいた。
けれど、前へ進もうとする意思だけは失われていなかった。
一行は、灯りの消えた湖岸を離れ、町の宿へ戻った。
宿に着く頃には、町の灯りもまばらになっていた。
それでも宿の女将は、遅く戻った一行のために、温かな粥と簡単な料理を残してくれていた。
湯気の立つ椀を前にしても、誰もすぐには箸を取れなかった。
湖で見送った魂。
ヴェインの言葉。
クロスの薬莢。
それぞれの胸に残るものが重すぎて、食堂にはしばらく食器の小さな音だけが響いていた。
それでも、ブックマンに促され、皆は少しずつ食事を口へ運んだ。
食べなければ、明日は動けない。
それは誰もが分かっていた。