第4章 【第三話】檻と家のはじまり
薄暗い空間の奥で、巨大な存在が静かに揺れている。
人の形を思わせる輪郭。
幾本もの腕のようなもの。
そこにいるだけで、広間そのものが呼吸しているような、不思議な圧迫感があった。
私は息を呑む。
「…… ティファ……」
低く、深い声が、石壁へ響いた。
名を呼ばれた瞬間、身体の内側まで見通されたような感覚に襲われる。
「……お前の内に宿るイノセンスを……見せておくれ……」
ゆっくりと伸びてきた触手が、私の身体を包み込む。
冷たいはずなのに、不思議と痛みはなかった。
けれど、喉の奥へ直接触れられているような圧迫感に、呼吸が浅くなる。
ヘブラスカは、長い沈黙のあと、低く声を落とした。
「寄生型イノセンス……ニルヴァーナ……」
その声に、僅かな揺らぎが混じる。
「歌によって……死せる魂を導き……伯爵の手に堕ちる前に……その魂を天へ還すもの……」
ヘブラスカの触手が、喉元へ触れるように僅かに揺れる。
「そして……すでにAKUMAの器へ囚われた魂に対しては……その歌を浄化の力として解き放ち……器を破壊することで……苦しみから解き放つ……」
喉の奥が、微かに熱を持った。
「その光は……お前が刃を望んだ時……二振りのレイピアとなって顕れ……歌と共に……AKUMAを滅する力となる……」
私が知っていたニルヴァーナの力。
それを、他者の口から改めて告げられることが、ひどく重かった。
隣で、コムイさんが息を呑んだ気配がする。