第4章 【第三話】檻と家のはじまり
教団の奥へ近付くほど、空気は静かになっていった。
科学班の喧騒も、団員たちの足音も、少しずつ遠ざかっていく。
長く続く石造りの廊下を歩きながら、私は無意識に手首へ指を添えた。
そこには、母の銀の髪紐が結ばれている。
「緊張しているかい?」
隣を歩くコムイさんが、穏やかに尋ねた。
「……少し」
「そうだろうね。ヘブラスカは、僕たち黒の教団にとって、とても大切な存在だ。けれど、初めて会う人にとっては……まあ、少し驚く姿かもしれない」
「コムイさんも、いつも立ち会うのですか?」
「基本はね。特に、君のように詳細がほとんど分からない適合者の場合は、僕も確認しておかなければならない」
その言葉に、胸が僅かに強張る。
詳細が、ほとんど分からない。
やはり師匠は、私がここへ向かうこと以外、ろくに説明をしていなかったらしい。
「……師匠らしいわ」
思わず零す。
コムイさんは困ったように笑った。
「本当にね。君を送り出すなら、もう少し説明してくれてもよかったと思うよ」
けれど、その声音には苛立ちよりも、私への気遣いが滲んでいた。
やがて、重厚な扉の前へ辿り着く。
コムイさんが足を止め、私へ静かに視線を向けた。
「大丈夫。何が分かっても、君を一人で抱え込ませるつもりはないよ」
胸の奥へ、僅かな温かさが落ちた。
「……はい」
扉が、ゆっくりと開く。
その向こうには、天井の高い石造りの広間が広がっていた。