第4章 【第三話】檻と家のはじまり
それまで穏やかだった彼の表情が、静かに引き締まっていった。
ヘブラスカの声が、広間の底へ沈むように響く。
やがて、彼女は私の名をもう一度呼んだ。
「 ティファ……」
「……はい」
「お前のイノセンスは……いつか救済の果てに……大いなる“終焉の導き手”を生むだろう……」
胸が、強く打った。
「……終焉の、導き手……?」
聞き返した声は、ひどく小さかった。
「白き歌を宿す者よ……お前の歌が……救いとなるか……終わりとなるか……」
ヘブラスカの触手が、僅かに揺れる。
喉の奥で、ニルヴァーナが熱を持った。
不意に、師匠の声が蘇る。
――お前のその力は……いつか、お前自身まで食い潰すぞ。
あの言葉の意味が、分かったわけではない。
けれど、今初めて、そこにあった不吉な重みへ触れた気がした。
私は静かに息を吐く。
残ったのは、喉の奥で脈打つ熱と、逃れられない言葉の重さだけだった。
「…… ティファちゃん」
コムイさんの声が、すぐ傍で聞こえた。
振り向く。
彼は眼鏡の奥の瞳を曇らせながら、心配そうに私を見ている。
先ほどまでの明るく飄々とした雰囲気は、そこにはなかった。
「大丈夫かい?」
すぐに頷くことはできなかった。
怖くないと言えば、嘘になる。
自分の歌が、いつか何をもたらすのか。
私自身にも、分からない。
それでも、ここで立ち止まるわけにはいかなかった。
「……大丈夫です」
ようやく微笑む。
「少し、驚いただけですから」
コムイさんは、すぐには答えなかった。
ただ、私の表情をじっと見つめる。