第28章 【幕間】神田/月影の楽園 後編
食堂の扉を開けると、焼き立てのパンと温かなスープの匂いが一気に流れ込んできた。
朝食には少し遅く、昼食にはまだ早い時間。
それでも食堂には、科学班やファインダー達が何人か残っている。
神田は迷いなく厨房前のカウンターへ向かった。
「ジェリー」
低い声。
厨房の奥から、巨大な影が嬉しそうに現れる。
「あらぁ、神田じゃない♡ 今日もざる蕎麦でいいのねぇ?」
「あぁ」
あまりにも慣れたやり取りに、私は少しだけ目を瞬かせた。
木のざるへ綺麗に盛られた細い麺。
小さな器の濃い色のつゆ。
冷たい蕎麦らしい。
神田がこちらをちらりと見る。
「何だ」
「それ、美味しいの?」
素直に尋ねると、神田は数秒黙った。
それから、ジェリーへ視線を向ける。
「……こいつにも同じの」
私は目を瞬く。
「あらぁ、ティファちゃんもお蕎麦デビューなのねぇ?」
「多分、初めてよ」
「いいわねぇ〜! 任せなさぁい♡」
ジェリーが楽しそうに厨房へ戻っていく。
私は空いている席へ腰を下ろした。
向かい側へ、神田が座る。
「神田って、よくそれを食べているわよね」
「悪いか」
「悪くないわ。ただ、そんなに美味しいのかと思って」
「……食えば分かんだろ」
「だから今、食べるところよ」
神田が露骨に眉を寄せる。
けれど、以前ほど刺々しい空気にはならなかった。