第4章 【第三話】檻と家のはじまり
「ははっ、本人が言うなら間違いねぇさ。クロス元帥の弟子ってだけで、 ティファが逞しい理由は大体分かるな」
「聞こえているわよ、ラビ」
「褒めてんだよ」
本当に褒めているのかは分からなかったけれど、その軽いやり取りのおかげで、知らず張り詰めていた肩の力が僅かに抜けた。
コムイさんは軽く咳払いをすると、改めて私へ向き直る。
先ほどまでの明るさを残しながらも、その眼差しには、室長としての静かな慎重さが戻っていた。
「君のイノセンスについては、このあと正式な確認をさせてもらうことになる。喉に宿る寄生型で、歌を媒介に発動する……ということだったね」
無意識に、指先が喉元へ触れた。
「はい。『ニルヴァーナ』と呼んでいます」
「ニルヴァーナ……」
コムイさんは、その名を確かめるように小さく繰り返した。
けれど、そこで詳しく問い詰めてはこなかった。
「詳細は、まずヘブラスカの確認を受けてからにしよう。到着したばかりの君へ、いきなり質問責めをするのも酷だからね」
その声音が、少しだけ柔らかくなる。
「ようこそ、黒の教団へ。 ティファちゃん。ここは戦うための場所だけれど、同時に、君が帰ってきていい場所でもある」
胸の奥が、僅かに詰まった。
帰ってきていい場所。
師匠と旅をしていた頃は、明日にはどの街にいるのかさえ分からなかった。
アレンと過ごした日々も、いつも移動と修練と任務の合間にあった。
けれど、ここには部屋があり、仲間がいて、任務から戻る者を迎える人々がいる。
本当に、自分もその中に入れるのだろうか。
「……ありがとうございます」
どうにか、そう答えた。