第4章 【第三話】檻と家のはじまり
リナリーに導かれ、辿り着いたのは、喧騒と熱気に満ちた科学班の区画だった。
扉が開いた途端、機械油と紙、それから濃いコーヒーの匂いが押し寄せてくる。
山積みの書類。
用途も分からない複雑な機械。
その間を縫うように、白衣姿の人々が慌ただしく行き交っていた。
「兄さん、連れてきたわよ」
リナリーが声をかけると、書類の山の向こうから、眼鏡をかけた男性が勢いよく顔を上げた。
「おおっ!君が ティファちゃんだね!」
次の瞬間、その人は白衣を翻しながら、こちらへ大股で歩み寄ってくる。
「やあ、よく来てくれたね!僕はコムイ・リー。黒の教団本部で室長をしている、リナリーの兄だよ」
「初めまして。 ティファです」
私が一礼すると、コムイさんは満足そうに頷いた。
「クロス元帥から、君がこちらへ向かうことだけは聞いていたよ。長い旅だっただろう? ……というより、あの人の弟子として過ごしてきた時点で、相当な苦労をしてきたと思うけれど」
「……否定はできません」
そこまで言って、思わず言葉を濁す。
コムイさんは、その反応だけで何かを察したように、深く頷いた。
「……なるほど。やっぱり随分苦労してきたんだね」
「兄さん、まだ ティファから何も聞いてないでしょう?」
「聞かなくても分かるよ、リナリー。クロス元帥だからね」
「それだけで納得される師匠も、どうかと思うわ……」
思わず零すと、背後でラビが噴き出した。