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【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第27章 【幕間】神田/月影の楽園 前編


「……神田?」

返事はない。

女は舞台の上で踊り続けている。

鈴の音。

音楽。

歓声。

その全てに紛れるように、甘い声がもう一度響いた。

――まだ、苦しい?

神田の呼吸が、僅かに乱れる。

今の声は、私にも聞こえた。

けれど、周囲の客達は誰も反応していない。

あの声は、神田へ向けられている。

そう思った瞬間、神田が乱暴に立ち上がった。

椅子が、ガタン、と大きな音を立てる。

「神田!」

私は咄嗟に、その腕を掴んだ。

触れた瞬間。

喉の奥で、『ニルヴァーナ』が悲鳴みたいに強く脈打った。

「っ……!」

視界が、白く弾ける。

水面。

暗闇の中へ浮かぶ、蓮の花。

白い光に満ちた、知らない場所。

倒れ込む誰かの影。

そして。

名前を呼ぶ、掠れた声。

――ユウ。

「……なに、これ……」

私の指先が震える。

神田が、弾かれたように私の腕を振り払った。

「触るな!」

鋭い声。

私は息を呑み、彼を見上げる。

神田の顔は、見たこともないほど険しく歪んでいた。

怒っている。

けれど、それだけではない。

何かを暴かれたような。

触れられてはいけない傷へ、無理矢理触れられたような。

そんな顔だった。

舞台の上では、赤いヴェールの女がひどく嬉しそうに笑っている。

しゃらり、と鈴の音が鳴った。

「……見えたのね」

女の唇が、確かにそう動いた。

喉の奥で、『ニルヴァーナ』がまだ激しく震えている。

私は自分の胸元を押さえながら、隣に立つ神田を見た。

彼は六幻の柄へ手を掛けたまま、白くなるほど強く拳を握り締めている。

けれど、その指は僅かに震えていた。

初めて見た。

神田が、戦うことではなく。

何かを思い出すことに怯えているような顔を。

酒場の熱狂は、なおも止まらない。

誰も、こちらの異変には気付かない。

ただ舞台の上の女だけが、すべてを知っているみたいに笑っていた。
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