第27章 【幕間】神田/月影の楽園 前編
酒場へ入った瞬間、甘い煙と酒の匂いが押し寄せた。
音楽。
笑い声。
踊り子達の鈴の音。
外の市場とはまた違う、夜に溶けた熱気が場内へ満ちている。
壁際の卓では男達が酒杯を掲げ、中央の舞台では華やかな衣装の女達が音楽に合わせて身体を揺らしていた。
その中で、通路脇に座っていた女が、ふと神田を見上げる。
「――あら」
褐色の肌。
金色の装飾。
細い煙管を手にした、妖艶な踊り子。
女はゆっくり足を組み替え、興味深そうに神田を眺めた。
「珍しい顔。観光客じゃないでしょう?」
神田は答えない。
だが、女は気にした様子もなく立ち上がる。
細い指先が、神田の顎へ伸びた。
「でも、嫌いじゃないわ。そういう怖い顔」
次の瞬間、ぱし、と乾いた音が響いた。
神田が、その手首を掴んでいた。
「……馴れ馴れしい」
低い声。
女は一瞬目を見開いたが、すぐに喉の奥で笑った。
「ふぅん。怒った顔の方が綺麗ね」
「神田」
私が思わず声を掛けると、神田は女の手を離し、吐き捨てるように言った。
「失せろ」
ほとんど脅しだった。