第4章 【第三話】檻と家のはじまり
「……へぇ」
低く落ちた声は、先ほどまでの弾むような響きとは少し違っていた。
「見た目より、ずっと落ち着いてんだな」
「見た目だけで決めるものではないでしょう?」
「そりゃそうだ」
ラビは再び笑った。
けれど、その笑みは先ほどより少しだけ慎重に見えた。
こちらを口説きながら。
同時に、私の返す言葉を一つずつ確かめるように。
その時。
「はいはい、そこまで!」
凛とした声が、回廊へ響いた。
すぐに、軽やかな足音が近づいてくる。
現れたのは、黒の団服を纏った少女だった。
艶やかな黒髪を揺らし、まっすぐこちらへ歩み寄ってくる。その表情は呆れているのに、瞳には親しみ深い温かさがあった。
「ラビ、初対面の女の子にいきなり何してるの!」
「痛たたたっ!リナリー、耳!耳は勘弁してほしいさ!」
少女がラビの耳を軽く引っ張る。
ようやく解放された右手を胸元へ戻しながら、私はそっと息を吐いた。
手が離れたことへ、僅かに安堵している自分に気付く。
ラビは情けない声を上げているけれど、本気で嫌がっている様子ではない。
耳を引かれた途端、先ほどまで一瞬だけ覗いていた静かな眼差しは跡形もなく消えていた。
そこにいるのは、友人に呆れられながら軽口を叩く、ごく普通の明るい少年だけに見える。
「もう。本当にごめんなさい、驚かせちゃったわね」
少女はラビの耳を離すと、申し訳なさそうにこちらへ向き直った。
「ラビは、綺麗な人を見るとすぐこうなるの。悪い人じゃないんだけど……距離感がちょっと変なのよ」