第27章 【幕間】神田/月影の楽園 前編
静寂。
残された洗い場へ、水の音だけが響いていた。
神田は、巻かれたばかりの包帯へ視線を落とす。
白い布。
丁寧過ぎるほど整えられた結び目。
胸の奥が、ひどく鬱陶しい。
――ラビのところに行くことと、あなたを放っておくことは別よ。
「……くだらねぇ」
低く吐き捨てる。
けれど、その声は空しく響いただけだった。
もう、否定だけで押し流せる段階ではなかった。
視線が追う理由も。
傷を見られたくなかった理由も。
あの馬鹿ウサギと並ぶ姿を見て、腹が立った理由も。
全部、見ないふりをするには近過ぎる。
神田は拳を強く握り締めた。
もう、あいつが選んだ相手は決まっている。
今更、どうこう出来るものじゃない。
そんなことは分かっている。
それでも。
「……チッ」
舌打ちが、冷えた空気へ落ちる。
その苛立ちが、誰へ向いているのか。
認めたくないほど、もう分かっていた。