第26章 【第二十五話】終幕なき夜・後編
やがて、ゆっくりと蓋が開く。
中から現れたのは、一見すれば人間の男だった。
青白い肌。
虚ろな瞳。
不自然にぎこちない動き。
舞台上では、恋人役の女優が震える身体を演技で隠すように、男へ近付いていく。
脚本通りなのだろう。
死んだ恋人が蘇り、愛しい者の腕へ戻る場面。
観客達が息を呑む。
誰かが涙ぐむ。
支援者らしき貴族達は、恍惚とした顔でその瞬間を見つめていた。
青白い男の腕が、ゆっくり女優の背へ回る。
抱擁。
そう見えた。
けれど。
女優の表情が、ふっと強張る。
恋人役の胸へ顔を寄せたまま、瞳だけが不自然に揺れた。
台詞を待つ顔ではない。
演技を続ける顔でもない。
恐怖で、声を失った人間の顔だった。
男の指先が、彼女の背へ食い込んでいく。
逃げようとするように、女優の手が微かに震える。
「っ――」
声にならない悲鳴。
観客達は気付かない。
その震えさえ、迫真の演技だと思っている。
喉の奥で、『ニルヴァーナ』が強く脈打った。
私は歌へ、力を込める。
澄んだ旋律が、劇場を覆う黒い気配へ触れる。
その瞬間。
青白い男の動きが、ぴたりと鈍った。
女優の背を締め上げようとしていた腕が、不自然に震える。
そして。
男の首が、あり得ない角度へ傾いた。
関節が軋む。
皮膚の下で何かが蠢く。
観客席から歓声が上がった。