第23章 【第二十二話】もう戻れない夜
私は思わず目を見開く。
ラビはそんな私を見て、楽しそうに笑った。
「ちゃんと部屋までは送るさ。……帰したくねぇけど」
その素直な言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。
ラビは私を見つめたあと、不意に前髪へそっと口付ける。
触れるだけの、優しいキス。
「……今日はこの辺で我慢しとく」
低い声が耳を甘く痺れさせる。
私は熱くなった頬を隠すみたいに、彼の胸元へ額を押し付けた。
するとラビが、小さく笑う。
その振動が胸へ伝わって、また鼓動が速くなった。
やがて、二人で静かな回廊を歩き始める。
深夜の教団は驚くほど静かだった。
窓の外では、まだ雪が降り続けている。
けれど、不思議と寒くない。
隣を歩くラビの体温が、すぐ近くにあるからだろうか。
互いに何度か視線が合う。
その度に、どちらからともなく小さく笑ってしまう。
こんな空気になるなんて、少し前までは想像もしていなかった。
それでも。
もう、この距離を知らなかった頃には戻れない。
戻りたいとも、思わなかった。
やがて、私の部屋の前へ辿り着く。
足が止まる。
同時に、名残惜しさが胸へ広がった。
ラビも同じだったらしい。
扉の前で立ち止まったまま、すぐには離れようとしない。
静かな沈黙。
廊下の灯りが、彼の赤い髪を淡く照らしていた。