第23章 【第二十二話】もう戻れない夜
しばらく、お互い喋らなかった。
静かなチャペルへ、雪の降る音だけが遠く響いている。
ラビの胸へ額を預けたまま、私はゆっくり目を閉じた。
落ち着く。
不思議なくらい。
すると頭上で、ラビが小さく息を吐く。
「……離れると、実感なくなりそう」
掠れた声。
胸が熱くなる。
私はそっと顔を上げた。
するとラビが、困ったみたいに笑う。
「今、まだ半分くらい夢見てる気分なんさ」
その翠の瞳が、甘く細められる。
私も同じだった。
さっき唇が触れたことも。
好きだと言ってもらえたことも。
こうして抱き締められていることも。
全部、夢みたいなのに。
胸へ触れる体温だけが、これは現実なのだと教えてくる。
その時だった。
――ゴォン……。
重たい鐘の音が、静かな夜へ響き渡る。
私ははっと肩を揺らした。
深夜を告げる鐘。
高い天井へ反響した音が、甘く溶け掛けていた空気を少しだけ現実へ引き戻す。
ラビが小さく息を吐く。
「……タイミング悪ぃ」
掠れた声。
けれど、その腕はまだ私を離さない。
私は思わず小さく笑ってしまう。
するとラビが、じっと私を見下ろした。
熱を孕んだ翠の瞳。
「……可愛過ぎて困る」
低い声。
胸が熱くなる。
ラビは困ったみたいに笑いながら、私の髪へ指を通した。
「……このまま本気で攫うぞ」
どくん、と心臓が跳ねる。
ラビは、私が固まったのを見るなり、喉の奥で小さく笑った。
「――うそうそ」
「……本当に?」
「半分くらいは」
即答だった。