第3章 【第二話】次へ繋ぐ手
「面倒臭ぇな」
師匠は舌打ちしながら、私へ封筒を投げて寄越した。
咄嗟に両手で受け取る。
厚い封筒だった。
表には、見慣れない紋章が刻まれている。
「それを本部の門番に渡せ。お前が向かうことだけは知らせてある」
「……これだけで、入れるの?」
「入れなきゃ門ごと吹き飛ばせ」
「吹き飛ばしません」
即答すると、師匠は鼻で笑った。
けれど、次の瞬間。
その視線が、ほんの僅かに真面目なものへ変わる。
「ティファ」
名を呼ばれ、自然と背筋が伸びた。
「教団に入ったからって、全部を預けるな」
「……え?」
「お前の力も、歌も、答えもだ」
師匠は私の喉元へ視線を向ける。
「連中がお前を何と呼ぼうが、何に使おうとしようが……最後に決めるのはお前だ」
胸の奥で、ニルヴァーナが微かに脈打った。
「……はい」
短く答える。
師匠はそれ以上何も言わず、視線を逸らした。
「馬車が来てる。とっとと行け」
本当に、最後まで素直ではない人だった。
私は鞄を持ち上げる。
扉へ向かおうとして、もう一度だけ振り返った。
アレンが立っている。
何かを堪えるように、けれど決して目を逸らさずに、私を見ていた。
「……アレン」
「はい」
「また、会えるわ」
願いというより、そう決めるように言った。
アレンは一瞬、泣きそうな顔をした。
けれど、すぐに小さく微笑む。
マナを思わせる柔らかな笑顔。
それでも今は、その奥にアレン自身の意思があることを、私は知っていた。
「……はい。必ず」
その声を胸へ刻み、私は部屋を出た。