第23章 【第二十二話】もう戻れない夜
「……私」
声が掠れる。
けれど、不思議と逃げたいとは思わなかった。
「ラビといると、苦しくなるの」
胸元へ手を当てる。
「離れた瞬間、探してしまうし……」
喉が熱い。
「触れられると、もっと欲しくなる」
ラビの喉が、ごくりと上下した。
私は逃げずに続ける。
「こんなの、初めてで……怖かった」
静かなチャペルへ、自分の声だけが落ちていく。
「クロウリーとエリアーデを見て……誰かを求めることも、失うことも、怖くなった」
胸が苦しい。
けれど、言葉にするたび、自分の心が少しずつ確かな形を持っていく。
「でも」
私はぎゅっと彼のTシャツを握り締めた。
「それでも、ラビのそばにいたい」
震える声。
けれど、もう誤魔化さなかった。
「……ラビが、好き」
胸の奥で『ニルヴァーナ』が甘く脈打つ。
「離れたくないって、思うくらい」
静寂。
ラビは、何も言わなかった。
ただ、片方だけ覗く翠の瞳を大きく見開いたまま、息を忘れたみたいに私を見ている。
まるで。
ずっと欲しかった言葉を、本当に貰えるとは思っていなかったみたいに。
やがて。
ラビが、深く息を吐いた。
長い間、胸の奥へ押し込めていたものが、ようやく零れ落ちたみたいな吐息だった。
「……やっとかよ」
掠れた声。
困ったみたいに笑う。
けれど、その笑みは今にも泣きそうなくらい揺れていた。
私の胸が、きゅっと締め付けられる。