第23章 【第二十二話】もう戻れない夜
しばらく、誰も喋らなかった。
静か過ぎて、自分の呼吸音ばかりが耳につく。
やがて。
「……来たな」
低く掠れた声。
その一言だけで、胸の奥が熱くなる。
私は小さく頷いた。
そして、導かれるみたいに、一歩ずつ彼の方へ歩いていく。
高い天井へ、靴音が静かに響いた。
祭壇へ落ちる月光。
色硝子の淡い光。
その中へ近付くたび、呼吸が浅くなる。
ラビは動かない。
ただ、じっと私を見つめている。
逃がさないみたいに。
けれど、私の言葉を待ってくれているみたいに。
私はやがて、彼の前で足を止めた。
近い。
少し手を伸ばせば、触れられる距離。
ラビの翠の瞳が、苦しそうに細められる。
「……ティファ」
名前を呼ばれる。
それだけで、胸が甘く痛んだ。
ラビの指先が、そっと私の頬へ触れる。
熱い。
壊れ物へ触れるみたいに優しいのに、その奥にある感情は少しも隠し切れていなかった。
「ちゃんと話す、って言ったよな」
低い声。
私は小さく頷く。
喉が震えた。
けれど。
今度こそ、誤魔化したくなかった。
私は震える指で、そっとラビのTシャツを掴む。
その瞬間、ラビの呼吸が止まった。
翠の瞳が、大きく揺れる。
私は彼を見上げた。