第23章 【第二十二話】もう戻れない夜
ラビが、僅かに目を細めた。
「どした?」
低い声。
その声だけで、また胸の奥が熱くなる。
私は小さく息を吸った。
「……今夜」
掠れそうになる声を、なんとか繋ぐ。
「消灯の鐘が鳴ったあと、中央塔のチャペルに来てほしいの」
ラビが、ぴたりと動きを止めた。
静かな書庫の空気が、さらに張り詰める。
私は逃げずに、真っ直ぐ彼を見る。
「ちゃんと、話したい」
その瞬間。
ラビの翠の瞳が、ゆっくり細められた。
驚いたみたいに。
そして同時に、堪え切れない熱を押し隠すみたいに。
長い沈黙のあと。
「……それ」
掠れた声。
「期待していいやつ?」
心臓がうるさい。
けれど私は、もう視線を逸らさなかった。
ラビの熱を真正面から受け止めたまま、小さく息を吐く。
「……ちゃんと、伝えたいの」
静かな声。
「中途半端なままにしたくない」
一瞬。
ラビが息を呑んだのが分かった。
それから、彼は堪え切れなくなったみたいに、低く笑った。
「……そりゃ、行かねぇわけねぇな」
その声が、胸の奥まで熱く響く。
私はそれ以上、そこにいられなかった。
これ以上ラビの近くにいたら、夜まで待てなくなる。
何もかも、今すぐ口にしてしまいそうだった。
胸の奥で『ニルヴァーナ』が甘く脈打つ。
私は小さく息を呑んだ。
「……また後で」
掠れそうになる声でそれだけ言うと、踵を返す。
静かな書庫へ、自分の足音だけが響いた。
けれど、背中へ突き刺さるみたいなラビの視線だけは、最後まで離れなかった。