第22章 【第二十一話】雪明かりの答え
ブックマンは静かに目を細める。
「それが救いになるとは限らん」
ラビは黙る。
「もしあの娘が、“皆を救うもの”として自分を差し出そうとした時」
低い声音。
「お前は記録者として見届けられるのか」
雪の音だけが、静かな回廊へ落ちる。
「それとも、一人の男として引き戻すのか」
ラビの拳が、静かに握られた。
長い沈黙。
やがて。
「……それでもさ」
掠れた声。
「もう、無かったことには出来ねぇよ」
静かな返答だった。
ブックマンはしばらく何も言わなかった。
やがて。
「好きにせい」
低い声が落ちる。
ラビが目を上げる。
ブックマンは視線を向けないまま、続けた。
「ただし、ワシは認めん」
空気が静かに張り詰める。
「情に溺れた者が、どう壊れていくか……ワシは嫌というほど見てきた」
低い声。
「お前も、そうならん保証はない」
ラビは答えない。
ブックマンはゆっくり踵を返した。
「背負うと言った以上、最後まで背負え」
去っていく背中。
その最後に。
「……あの娘を、“聖女”にするな」
ぽつり、と。
雪へ溶けるみたいな小さな声だった。
ラビの目が、僅かに見開かれる。
けれど、ブックマンは振り返らない。
「もし、あの娘が“誰のものでもなくなった”時――」
低い声。
「お前はきっと、後悔するぞ」
静かな回廊へ、雪の音だけが落ちる。
ラビは数秒、その背中を見つめていた。
やがて。
「……じじい」
小さく息を吐く。
「そんな未来、絶対させねぇよ」
掠れた声。
翠の瞳から、迷いが消えたわけではなかった。
それでも。
もう、その迷いを理由にティファから目を逸らすつもりもなかった。