第21章 【第二十話】残り香は、まだ熱い
ラビの笑みが、ぴたりと止まる。
先ほどまでの軽い空気が、一瞬で消えた。
翠の瞳が、静かに冷えていく。
「こいつに手ぇ出したら、洒落になんねぇぜ」
男は数秒ラビを見つめたあと、肩を竦めた。
「怖ぇなぁ」
そう笑って、車両を後にする。
扉が閉まった。
静寂。
私は小さく息を吐く。
なんだったのだろう、今の。
胸の奥に、妙な不安だけが残る。
すると。
「ティファ」
低い声。
振り返るより早く、ラビの手が私の左手首を掴んだ。
そのまま、包帯の巻かれた右肩へ触れないように、そっと自分の側へ引き寄せられる。
「っ……ラビ?」
「……ああいう胡散臭ぇ男には近付くな」
耳元で囁かれる。
低く、妙に真剣な声だった。
私は瞬きをする。
するとラビは、はっとしたように手を離した。
「……別に。変な奴に絡まれると面倒なだけさ」
「絶対、嘘よね?」
「気のせいさ」
ラビはふいっと視線を逸らす。
けれど、耳の端がほんの少しだけ赤かった。