第3章 【第二話】次へ繋ぐ手
言いながら、母の最後が脳裏を過った。
雪の上で灰へ崩れていった指。
腕の中から失われた温もり。
自分の歌で送れた魂と、それでも救えなかった命。
私は指先を握り締める。
「それでも進むなら、覚悟を持たないと」
突き放すような言葉だった。
けれど、甘い希望だけを渡したくはなかった。
アレンは暫く黙っていた。
そして、静かに頷く。
「……はい」
その声は小さい。
けれど、確かな意思が宿っていた。
あの夜、私の袖を握り締めて泣いていた少年は、もうどこにもいないわけではない。
その痛みも、弱さも、きっと今も彼の中にある。
それでも彼は、それらを抱えたまま立とうとしている。
私は、ほんの少しだけ微笑んだ。
「じゃあ、明日から訓練を増やすわ」
アレンの表情が、ぴたりと固まる。
「……え?」
「守れるようになりたいんでしょう?」
「そ、それはそうですけど……」
「師匠には私から言っておく」
「待ってください、ティファ。師匠まで加わったら、僕、本当に死にます!」
慌てて追い縋ってくる声に、私は思わず小さく笑った。
その笑い声へ、アレンが一瞬だけ目を見開く。
やがて彼も、困ったように笑った。
夜の道を、二人で歩いていく。
私たちはまだ幼く、何一つ完璧ではなかった。
私は、自分の力がいつか何を招くのかを知らない。
アレンもまた、自分がどれほど大きな運命へ巻き込まれていくのかを知らない。
それでも、この時だけは。
隣を歩く彼の足音が、確かに前へ進んでいることが嬉しかった。
そして私は、まだ知らなかった。
あの雨の夜、師匠が吐き捨てた言葉の意味を。
誰かへ差し伸べた手が、いつか自分自身の運命をも変えてしまうことを。
救いを求める声が、一つ、また一つと私へ集まっていく未来を。
その時の私はまだ、何も知らずにいた。