第21章 【第二十話】残り香は、まだ熱い
すると、クロウリーが急に窓の外へ顔を向けた。
「そうである! 吾輩、少し別の車両も見てくるのである!」
「ん?」
「この汽車というものを、もっと見てみたいのである!」
「あ、おい、クロちゃん――」
ラビが止めるより早く、クロウリーは勢いよく立ち上がり、別車両へ消えていった。
私は思わず苦笑する。
「……なんだか、小さな子供みたいね」
「まぁ、今まで城に引きこもってたからさ」
ラビが肩を竦める。
アレンも小さく笑っていた。
その横顔を見た瞬間、診療所の廊下で聞いた言葉が胸の奥を掠める。
――僕はティファを、一人の女性として大切に思っています。
胸が、少しだけ痛んだ。
私は誤魔化すように、窓の外へ視線を向ける。
けれど。
一時間ほど経っても、クロウリーは戻ってこなかった。
「……遅いですね」
アレンが眉を寄せる。
ラビも苦笑しながら立ち上がった。
「クロちゃんの方向音痴っぷりなら、迷子も普通にありそうさ」
「探しに行きましょう」
私は頷き、二人の後を追って席を立った。
右肩が鈍く疼いたけれど、今はそれを気にしている場合ではなかった。