第21章 【第二十話】残り香は、まだ熱い
「そうである。その後、吾輩は急に身体が苦しくなって……毒花だったのかと思ったのである」
クロウリーは喉元を押さえ、当時を再現するみたいに身を折った。
「ガハッ、と咳き込んだら、歯が全部抜け落ちたのである!!」
「全部!?」
アレンが声を上げる。
「吾輩も死ぬかと思ったのである! だが、その直後に、今の牙が生え揃った」
クロウリーは、自分の牙へそっと触れた。
「今思えば……あの花に宿っていたものが、イノセンスだったのかもしれぬ」
汽車の規則正しい揺れだけが、しばらく車内へ響いた。
食人花に宿っていたイノセンス。
それを預かっていた師匠。
そして、何も知らないクロウリーへ渡された花。
「……師匠は、それを知っていたのかしら」
私が呟くと、アレンが深い溜息を吐いた。
「知っていたとしても、僕達には何も説明しませんよね」
「絶対しないわね」
「弟子からの信用ねぇなぁ、クロス元帥」
ラビが呆れたように笑う。
クロウリーは、ぱちぱちと瞬きをした。
「随分と変わった人物なのであるな、クロスという男は」
「変わってるなんて優しい言い方で済む人じゃありません」
アレンが真顔で答える。
私は小さく頷いた。
「本当に」
ラビが吹き出した。
その笑い声に、少しだけ重くなっていた空気が和らぐ。