第20章 【第十九話】もう譲れない
クロウリーは、窓の外へ視線を向ける。
「病院は……村の入口であったな」
「はい。ですが、村の人達はまだ貴方を……」
「分かっている」
クロウリーは静かに頷いた。
赤い瞳が、僅かに揺れる。
「吾輩を恐れるのは当然である。これまで、吾輩は彼らにとって吸血鬼だったのだから」
その声が、あまりにも寂しかった。
けれど。
クロウリーは、ゆっくり立ち上がった。
「それでも、ティファ嬢へ謝らねばならぬ」
足元が僅かに揺れる。
アレンが咄嗟に支えようとすると、クロウリーは弱く首を振った。
「吾輩も、後から向かうのである」
「一人で大丈夫ですか」
「……怖いが」
クロウリーは、力なく笑った。
「もう、城の中だけで怯えているわけにはいかぬのである」
アレンは、言葉を失った。
クロウリーはしばらく沈黙したあと、ぽつりと続ける。
「会いたい者がいるのなら、会えるうちに会っておくのである」
掠れた声。
「吾輩は……もう、エリアーデに会えぬから」
その言葉に、アレンの呼吸が止まった。
クロウリーは、俯いたまま呟く。
「吾輩は、気付くのが遅かった」
震える指が、胸元を握り締める。
「だから、お前は……後悔するな」
静寂。
アレンは小さく目を伏せた。
そして、深く頭を下げる。
「……ありがとうございます」
次の瞬間には、もう部屋を飛び出していた。
雪の降る街の中を走る。
冷たい空気が肺を焼く。
けれど、足は止まらなかった。
ティファの顔が頭から離れない。
傷付いても、いつも笑って。
誰より優しいくせに、一人で全部抱え込んでしまう人。
失いたくない。
その想いだけが、アレンを突き動かしていた。