第20章 【第十九話】もう譲れない
病室へ落ちる静寂は、息が詰まるほど甘かった。
額へ残るラビの口付けの熱が消えない。
絡められた指先も、抱き寄せられた腕の感触も、全部まだ身体へ残っていた。
ラビが去ってから、私はベッドの上で小さく息を吐いた。
落ち着かない。
鼓動がうるさい。
あと少しで、本当に唇が触れていた。
――次は、たぶん我慢しねぇ。
耳元で囁かれた低い声を思い出した瞬間、喉の奥で『ニルヴァーナ』が甘く脈打った。
でも、ラビの熱が残っているのに、心のどこかではアレンの横顔も消えなかった。
私は耐え切れなくなってベッドを降りた。
冷たい空気が欲しかった。
病室を出て、静かな廊下へ出る。
窓の外では雪が降っていた。
私は壁へ背中を預け、ゆっくり息を吐く。
けれど。
右肩の傷より、胸の方がずっと痛かった。
「……何やってるの、私」
自嘲みたいに呟く。
ラビの熱に呑まれそうになった自分。
拒まなかった自分。
むしろ――離れたくないと思ってしまった自分。
クロウリーとエリアーデの結末を見たばかりなのに。
愛して、執着して、壊れて。
そんな未来が怖いはずなのに。
それでもラビの腕の中は、ひどく安心してしまった。
私は額を押さえ、小さく目を閉じる。