第20章 【第十九話】もう譲れない
私は反射的に顔を上げる。
彼は病室へ入ってくるなり、私を見る。
そして。
「……何さその顔」
困ったみたいに眉を下げた。
「せっかくの美人が台無しさ」
ラビはそう言いながら、病室の扉を背中で閉めた。
私は小さく視線を逸らす。
「別に、普通よ」
「普通の顔したやつは、そんな今にも泣きそうな目ぇしねぇって」
低い声が静かな病室へ落ちる。
窓の外では雪が降っていた。
ラビはベッド脇の椅子へ腰を下ろす。
珍しく軽口を叩かない。
そのことが逆に落ち着かなかった。
私は包帯の巻かれた肩へ視線を落とす。
「……クロウリー、どうしてる?」
「アレンが付いてる」
ラビは短く答えた。
「泣き疲れて、今は少し落ち着いてるみたいさ」
その言葉に、胸が少し痛む。
――あなたを、愛したかったのにな。
エリアーデの最後の声が脳裏を掠めた。
私はぎゅっと指先を握る。
「……ティファ」
ラビの声。
顔を上げると、翠の瞳が真っ直ぐこちらを見ていた。
「何でそんな辛そうな顔してんの」
「……してないわ」
「またそれ」
小さく息を吐く音。
ラビは少しだけ視線を伏せたあと、ぽつりと言った。
「……まだ怒ってる?」
私は一瞬、意味が分からなかった。
「え?」
「エリアーデのこと」
心臓が跳ねる。
私は思わず黙り込んだ。
ラビは苦笑する。
「図星か」
「……怒ってなんか」
「じゃあ何で、ずっとオレから目ぇ逸らすんだよ」
言葉に詰まる。
病室の静けさが、逃げ場をなくしていく。