第3章 【第二話】次へ繋ぐ手
息を切らしながらも、アレンは答える。
私は左の剣を返し、その足元へ滑り込ませた。
アレンは咄嗟に後方へ跳ぶ。
けれど、着地の重心が僅かに崩れた。
次の瞬間、私の剣先は彼の胸元すれすれで止まっていた。
「……今のは、死んでいたわ」
アレンは悔しそうに唇を噛んだ。
肩で息をしながら、それでも顔を上げる。
「もう一度、お願いします」
昔のような、何も映さない瞳ではなかった。
負けたくないという悔しさ。
生きたいという意志。
守れる力が欲しいという願い。
それらが確かに宿っている。
私は剣を下ろさず、静かに言った。
「アレン」
「はい」
「イノセンスは、あなたの罪を証明するためにあるんじゃない」
アレンの表情が、僅かに揺れる。
「敵を討つためだけでもない。……誰かを守りたいと思うなら、そのために使えばいい」
「……守るために……」
小さく繰り返す声。
私は一歩、間合いを詰めた。
「でも、優しいだけじゃ守れないわ」
アレンが私を見る。
「迷っている間に、奪われることもある。願うだけでは届かないこともある。だから、あなたは強くならなきゃいけない」
母を失った雪の日が、脳裏を過った。
あの時の私は、何も知らなかった。
歌も。
戦うことも。
救うことの痛みも。
けれど、今は違う。
だからこそ、アレンにも生き残ってほしかった。
誰かを救おうとして、彼自身が失われてしまわないように。
「……はい」
アレンは、静かに頷く。
その声には、確かな意思があった。
私はレイピアを構え直す。
「じゃあ、もう一度」
「お願いします」
刃が交わる。
砂埃の舞う熱い空気の中で、アレンは何度も倒れ、何度も立ち上がった。
その度に、彼の瞳は少しずつ強くなっていった。