第19章 【第十八話】偽物じゃなかった愛~クロウリー編③
私は静かに目を閉じた。
エリアーデの姿は、もうどこにもない。
月明かりの差し込む崩れた部屋に残っているのは、風へ溶けていく淡い光と、石床へ膝をついたまま動けずにいるクロウリーだけだった。
彼女はAKUMAだった。
人を殺し、ひとつの魂を囚え、苦しませていた存在だった。
その事実は、何をしても消えない。
けれど。
目の前で彼女の名を呼び続けるクロウリーの声を、ただ聞いていることも出来なかった。
私はそっと息を吸う。
そして、静かに歌い始めた。
戦うための歌ではない。
魂を還すための歌でもない。
何かを取り戻すための歌でもない。
ただ、もう戻らないものへ手を伸ばすように。
行き場を失った悲しみが、少しでも夜の中へ溶けていくように。
淡い白銀の光が、崩れた部屋へ降り積もる。
雪のように。
祈りのように。
クロウリーは項垂れたまま、微かに肩を震わせていた。
「……エリアーデ……」
掠れた声が、歌の中へ沈んでいく。
返事はない。
それでも彼は、何度もその名を呼んだ。
やがて。
押し殺していた声が、喉の奥から崩れ落ちる。
「う……あぁ……っ……」
涙が、冷たい石床へ落ちた。
私は歌を止めなかった。
何を言えばいいのか、分からなかった。
何を言っても、失った痛みを軽く出来る気がしなかった。
だからただ、彼が泣ける場所に、旋律だけを残した。