第18章 【第十七話】歌声は吸血鬼を惑わせる~クロウリー編②
ラビがちらりとこちらを見る。
「……ティファ」
低い声。
「見たくねぇなら、下がってろよ」
その声音が妙に優しくて、胸が少しだけ痛む。
さっき突き放したことを、少し後悔した。
けれど、素直になれないまま私は首を横へ振る。
「……平気」
ラビは何か言いたげに翠の瞳を細めたが、それ以上は何も言わなかった。
やがて。
ぎぃ、と。
棺の蓋が、軋んだ音を立てて開かれる。
その瞬間、私は反射的に息を止めた。
中に横たわっていたのは、人間の遺体ではなかった。
ひしゃげた金属の骨格。
黒く焼け焦げた外殻。
ところどころへ残る、不気味な機械の残骸。
喉の奥で『ニルヴァーナ』が、低く震えた。
魂がない理由を、ようやく理解する。
これは、亡くなった人間ではない。
かつて人の魂を囚えていた、すでに浄化された器の残骸。
「……AKUMA」
アレンの声が、墓地へ低く落ちた。
月光が白銀の髪を照らす中、彼は険しい顔で棺の中を見下ろしている。
「やっぱり……クロウリーが襲っていたのは、人間じゃない」
ラビの翠の瞳が、鋭く細められた。
私は、冷たく沈黙する墓標の群れを見渡す。
吸血鬼が人を襲っていたのではない。
この城の主は、知らないままAKUMAを狩っていた。
なら。
あの女――エリアーデは。
胸の奥へ、嫌な予感が沈んでいく。