第18章 【第十七話】歌声は吸血鬼を惑わせる~クロウリー編②
まるで。
最初から、人など葬られていなかったみたいに。
喉の奥で『ニルヴァーナ』が、ひどく不自然に脈打った。
どくん。
けれど、それは魂の悲鳴へ共鳴しているわけじゃない。
救うべきものを探しても、何も見つからない。
その空白に、身体の奥が冷えていく。
「……いない」
掠れた声が漏れた。
ラビがすぐに振り返る。
「ティファ?」
「ここ……お墓なのに」
私は墓標を見渡した。
「誰も、いない……」
アレンの表情が変わる。
「どういうことですか?」
「分からない。でも……人の魂の残り香が、ひとつもないの」
言いながら、胸の奥がざわついた。
こんなことは、今までなかった。
死者の眠る場所が、ここまで空っぽに感じられるなんて。
その時、鼻の奥に残っていた甘い香りが、遅れて身体を蝕んだ。
「……っ」
視界が揺れる。
先ほど吸い込んだ花粉が、まだ完全には抜けていなかったのだ。
膝から力が抜ける。
「ティファ!」
倒れかけた身体を、ラビが咄嗟に抱き留めた。
腕を回され、強く引き寄せられる。
「しっかりしろ! まだあの花粉が残ってんのか!?」
翠の瞳に、焦りが浮かんでいた。
本気で心配している顔。
けれど。
――もろタイプさ。
その言葉が、また胸を刺した。
私は反射的にラビの胸を押し返す。
「……大丈夫」