第18章 【第十七話】歌声は吸血鬼を惑わせる~クロウリー編②
「ティファ、こっちだ! ここはもう保たねぇ、庭に退避するさ!」
ラビが鋭く叫ぶ。
次の瞬間、強引に腰を抱き寄せられた。
「っ――」
崩れ落ちる天井。
降り注ぐ瓦礫。
その中を、ラビは私を抱え込むように走り抜ける。
本来なら、安心するはずだった。
彼の腕の強さも、熱も。
けれど今は。
胸の奥が、妙に引っ掛かった。
――ストラーイクッ!! もろタイプさ!!
先ほどのラビの声が、嫌になるほど頭に残っていた。
分かっている。
ラビにとって、綺麗な女性へ反応するのは半分癖みたいなものだ。
深い意味なんてない。
そう理解しているはずなのに。
どうしてこんなにも、胸がちくちく痛むのだろう。
私はその感情を振り払うように、ラビの腕からそっと身を引いた。
「ティファ?」
夜風の吹き抜ける裏庭。
そこに広がっていたのは、墓地だった。
月光に照らされた無数の墓標。
風に揺れる草の音。
冷たい土の匂い。
けれど、足を踏み入れた瞬間。
私は息を呑んだ。
「……何、ここ……」
静かだった。
静か過ぎる。
墓地ならば、死者の残した微かな気配がある。
悲しみ。
未練。
誰かを想う、消えかけた温度。
けれど、この場所には何もない。
無数の墓が並んでいるのに、そこに眠るはずの魂の気配が、ひとつも感じられなかった。