第18章 【第十七話】歌声は吸血鬼を惑わせる~クロウリー編②
残された回廊には、食人花が飲み込んだ身体を噛み砕く音だけが響いていた。
ぐちゃ、ぐちゃ、と。
ラビが、気まずそうな顔でこちらを見る。
「……ティファ」
「何」
「怒ってる?」
「別に」
即答してしまう。
ラビが小さく顔を引き攣らせた。
「……あ、これ怒ってるやつだ」
アレンはそんな二人を見ながら、呆れたように深いため息を吐く。
その時だった。
食人花が、不意に動きを止めた。
花弁が、びくりと大きく痙攣する。
まるで、飲み込んだものを拒むみたいに。
次の瞬間。
肉厚な花弁の表面へ、黒いペンタクルが滲むように浮かび上がった。
「……っ!」
私は息を呑む。
アレンの表情から、完全に余裕が消えた。
「……今、食べたものが……AKUMAだったのか!?」
低い声。
ラビも真顔になる。
さっきまでの軽口が嘘みたいに、露わになった翠の瞳が鋭く細められた。
私は花へ浮かんだ黒い紋様を見つめたまま、喉の奥で『ニルヴァーナ』が不穏に震えるのを感じる。
村人だと思っていたものが、AKUMAだった。
なら。
あの女――エリアーデは。
そして、この城に棲む“吸血鬼”は。
この城には、ただの怪奇騒ぎでは済まされない、もっと悍ましい真実が潜んでいた。