第18章 【第十七話】歌声は吸血鬼を惑わせる~クロウリー編②
「……へ?」
目の前には私。
すぐ横には、食人花を叩き潰しながらこちらをじとっと見るアレン。
そして自分の手は、私のスカートをしっかり掴んでいる。
数秒。
状況を理解したラビの顔が、みるみる赤くなった。
「……いや、これは違うさ」
「何がですか」
アレンの声が冷たい。
「寝ぼけてただけさ!」
「寝言、全部聞こえてましたよ」
「忘れろ!!」
ラビが叫ぶ。
その瞬間、背後から食人花が襲い掛かった。
「満!!」
照れ隠しみたいな勢いで、ラビの鉄槌が巨大化する。
轟音と共に、迫っていた食人花が壁ごと潰れた。
けれど、砕けた花弁の奥から、さらに甘い香りが広がっていく。
「……っ、これ……!」
花粉だ。
吸い込んだ瞬間、指先から力が抜ける。
レイピアの光が揺らぎ、膝が僅かに沈んだ。
「ティファ!」
アレンの声。
けれど返事をする前に、静まり返った回廊へ靴音が響いた。
――コツ、コツ。
「こら!! そこの人間どもー!! 何してる!! この子たちはアレイスター様の大事な花よ!」
甘く、艶やかな声。
霧を割るようにして現れたのは、紫の医療服めいた衣装を纏った一人の美女だった。
エリアーデ。
白い肌。
紅い唇。
人ならざる妖しさを纏った美貌が、薄暗い回廊の空気ごと支配していく。
けれど、その瞳には明らかな異質さが宿っていた。
私は反射的に体勢を立て直す。
危険だ。
この女は。