第15章 【第十四話】言いかけた熱
ブックマンに必要なのは、偏りのない記録だ。
恐怖も、怒りも、執着も。
そこに混ぜていいものではない。
それなのに。
あの瞬間だけは、どうしても“歴史”として切り離せなかった。
ティファが消えかけた時、頭の中が真っ白になった。
掟も。
記録も。
演じてきた立場も。
全部、どうでもよくなった。
ただ、失いたくないと思った。
それだけだった。
ラビは羽ペンを机に放り、両手で顔を覆った。
火傷していた右腕が、今さらじくじくと痛みを訴えてくる。
けれど、その痛みすら遠かった。
今度は、別の記憶が蘇る。
ベッドへ押し倒した時のティファの顔。
驚きに見開かれた、アイスブルーの瞳。
真っ赤に染まった頬。
息を呑んだ、小さな音。
拒絶するでもなく、逃げるでもなく、呆然と自分を見上げていたあの顔。
そして。
「……ラ、ビ?」
あの掠れた声。
どくん、と今度は別の意味で心臓が跳ねた。
ラビは両手で顔を覆ったまま、机へ額をぶつける。
ごっ、と鈍い音がした。
「……っ、あ゛ー……」
低い呻きが漏れる。
無理だ。
思い出すなと言う方が、無理だった。
あの距離。
触れそうだった唇。
掴んだ手首の細さ。
しかも、たぶんティファは分かっていない。
自分がどれだけ無防備なのかも。
どれだけこちらの心臓を掻き乱しているのかも。