第15章 【第十四話】言いかけた熱
廊下の向こうから、靴音が近付いてくる。
ぴたり、と空気が止まる。
次の瞬間、ラビが弾かれたように離れた。
「っ、……!」
私は思わず肩を揺らす。
ラビは片手で口元を覆いながら、完全に明後日の方向を向いていた。
耳の根元が赤い。
けれど、足音は扉の前をそのまま通り過ぎていった。
部屋の中に、再び沈黙が戻る。
「……ラビ?」
「……見んな」
掠れた声。
「……?」
意味が分からないまま首を傾げる。
ラビはまだ口元を覆ったまま、視線を逸らしていた。
けれど、ふと私の右腕へ目を落とす。
包帯の端が、少し緩んでいた。
「……腕、見せろ」
低い声。
「え?」
「包帯。さっきから気になってた」
そう言って、ラビは机の上の新しい包帯を手に取る。
さっきまでの空気を誤魔化すみたいに。
けれど、その手つきだけはひどく丁寧だった。
「そこ座れ。椅子じゃ巻きにくいだろ」
促されるまま、私は鏡の前の椅子から立ち上がり、寝台の端へ腰掛けた。
素直に右腕を差し出すと、ラビは私の横へ座った。
視線が近くなる。
私は無意識に息を止めた。
ラビの手が、慎重に古い包帯を解いていく。
衣擦れの音。
時折、指先が肌に触れる。
そのたびに、胸の奥が跳ねた。
「……痛むか?」
「少しだけ、ね」
「我慢すんなよ」
低く、諭すような声。
ラビは眉を寄せたまま、傷口へ触れないよう新しい包帯を巻いていく。
間近にある横顔が、思ったより近かった。