第15章 【第十四話】言いかけた熱
その真後ろに、ラビが立つ。
ふわり、とタオル越しに髪を包まれた瞬間、背筋が小さく跳ねた。
「……痛ぇ?」
ラビの手が止まる。
声が一段低くなった。
「ち、違うの。痛くないわ」
慌てて否定する。
痛いのではない。
ただ、思ったより距離が近かった。
タオル越しに髪を包む手つきが、ひどく丁寧で。
膝の上の毛布を、無意識に握り締めた。
ラビは何も言わなかった。
傷へ響かないよう、少しずつ水気を取っていく。
部屋の中は静かだった。
窓の外で夜風が細く鳴っている。
時折、遠くの科学班フロアから小さな物音が聞こえるくらいだ。
跳ねる鼓動を誤魔化すようにぽつりと呟いた。
「……ラビ、慣れてるのね」
背後で、ラビの手が一瞬止まる。
「ん?」
「髪を乾かすの。手つきが、すごく丁寧だから」
少しの沈黙。
やがて、ラビはまたゆっくり手を動かし始めた。
「……昔、怪我したやつの手伝いくらいは、したことあるさ」
掠れた声だった。
私は小さく瞬きをする。
知らなかった。
彼の過去も。
演じてきた名前も。
その中で、何を見てきたのかも。
自分は何も知らない。
ラビはいつも軽く笑っていて、どこか掴みどころがない。
けれど今、髪に触れる指先は、驚くくらい温かかった。
「……ありがとう」
自然と、言葉が零れた。
その瞬間、背後でラビの呼吸が一度だけ止まった。
私は気づかなかった。
ただ、濡れていた髪が少しずつ乾いていく感覚に身を委ねていた。
しばらくして。
「……ティファ」
低い声が落ちてくる。
「ん?」
ラビは数秒黙ったまま、乾きかけた銀髪を指で梳いた。