第15章 【第十四話】言いかけた熱
朝食を終える頃には、外の雨もすっかり上がっていた。
窓の向こうでは、雲間から淡い朝日が差し込み始めている。昨夜までの冷たい雨が、嘘みたいだった。
「少年のことは、この病院で引き続き経過を見てもらう手筈です」
トーマスが、疲れの滲む顔で頭を下げる。
「容態に変化があれば、僕からすぐ教団へ連絡を入れますので」
私は小さく頷いた。
隣で、ラビも短く礼を返す。
「悪ぃな」
病院側との引き継ぎは、すぐに終わった。
問題は――そのあとだった。
「……」
「……」
準備を終え、ロビーの長椅子の前に立ったまま、私達はなぜか揃って黙り込んでいた。
気まずい、というのとは少し違う。
どう接すればいいのか、その距離の測り方が分からなくなってしまったのだ。
昨夜、あの廃遊園地で共有した時間が、妙に近過ぎた。
繋がれた手の熱も。
眠る直前、耳元を掠めた声も。
全部がまだ、身体の奥に残っている。
「……右腕、大丈夫か?」
先に口を開いたのは、ラビだった。
「え? あ、うん。平気よ」
答えながら、なぜか視線がうまく噛み合わない。
いつもなら軽口のひとつでも叩いてくるはずの彼が、今日は妙に静かだった。
私は落ち着かなさを誤魔化すように、三角巾の結び目を意味もなく弄る。
ラビはラビで、包帯の巻かれた右腕を所在なさげに掻いていた。
その奇妙な沈黙に耐えきれなくなったみたいに、ラビがふいに吹き出す。
「……なんさ、この空気」
「ラビが変に意識するからでしょう」
「してねぇし」
即答だった。
けれど、跳ねた赤茶髪の隙間から覗く耳の先は、うっすら赤い。
私が思わず小さく笑みを漏らした瞬間、ラビの動きがぴたりと止まった。
翠の瞳が、じっとこちらを見る。
「……なに?」
「いや」
ラビはきまり悪そうに視線を逸らし、乱暴に前髪を掻き上げた。
「なんでもねぇ」
少し掠れた声に、小さく瞬きをする。