第14章 【第十三話】夜明けまで、この手を
その気配に反応するように、ラビがゆっくり目を開ける。
翠の瞳が、至近距離で私を映した。
数秒。
完全に思考の止まった顔。
それから、繋いだままの手へ視線が落ちる。
「……あ」
珍しく。
本当に珍しく、ラビが固まった。
その耳が、じわじわと赤くなっていく。
私はもっと固まった。
看護師が、気を利かせるようにそっと背を向ける。
「朝食はこちらへ置いておきますね。診察はもう少し後に参りますから、それまではゆっくりなさってください」
「あ、ありがとうございます……」
どうにか返した声は、思った以上に小さかった。
扉が静かに閉じられる。
病室へ、朝の光と気まずい沈黙だけが残った。
ラビはまだ、私の手を握ったままだった。
「……ラビ」
「……悪ぃ」
ようやく声を出した彼は、気まずそうに視線を逸らす。
けれど、手を離そうとした瞬間。
彼の視線が、私の包帯へ落ちた。
白い布へ薄く滲んだ赤。
その途端、赤くなっていた耳とは裏腹に、翠の瞳の奥がすっと翳る。
昨夜の熱が、まだ完全には消えていない。
あの遊園地で私を失いかけた恐怖が、彼の中に今も残っている。
そう感じた瞬間、胸の奥が小さく痛んだ。
私は離れかけた彼の指へ、そっと自分の指を重ねる。
「……大丈夫よ」
ラビの瞳が、僅かに揺れた。
「ちゃんと、ここにいるから」
しばらく、何の返事もなかった。
やがてラビは、苦しそうに目を伏せる。
それから、ほんの僅かに私の手を握り返した。
「……ああ」
低く、掠れた声。
「分かってるさ」
そう答えた彼の指先は、まだ少しだけ震えていた。