第3章 【第二話】次へ繋ぐ手
それから、少しずつ時間が過ぎた。
アレンの顔の腫れは、ゆっくりと引いていった。
左目の傷跡は消えなかったけれど、ベッドの上で身体を丸めたまま過ごす時間は減っていく。
食事も、ほんの少しずつ口にするようになった。
まだ、笑うことはない。
自分から話すこともない。
けれど、窓の外を見る目には、以前ほどの虚ろさがなくなっていた。
ある日の昼下がり。
私は廊下で、洗い終わった布を抱えて歩いていた。
その時、居間の方から、マザーの驚いたような声が響く。
「クロス!」
思わず足を止める。
「アレンが喋ったよ!」
胸が跳ねた。
私は布を抱えたまま、居間の前まで走った。
中では、マザーが椅子から身を乗り出すようにしていた。
師匠は立ったまま、少し険しい顔でアレンを見ている。
暖炉の傍に座るアレンは、俯いたままだった。
白い髪が頬へかかり、表情はよく見えない。
「……アレン?」
私が小さく名を呼ぶ。
少年の肩が、僅かに動いた。
ゆっくりと、こちらへ顔を上げる。
以前より少しだけ光を取り戻した瞳が、私を映した。
そして。
「……ティファ」
掠れた、小さな声。
初めて聞く、アレンの声だった。
胸が、熱くなる。
「……うん」
それしか返せなかった。
涙が出そうになり、慌てて唇を噛む。
けれど、マザーは喜びながらも、どこか複雑そうな表情をしていた。
「喋ったのはいいんだけどねぇ……」
彼女は師匠へ視線を向ける。
「マナみたいに喋るんだよ、この子は」
一瞬、部屋の空気が静まった。