• テキストサイズ

【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第3章 【第二話】次へ繋ぐ手


ある夜。

月明かりが、窓から細く差し込んでいた。

私は眠れず、廊下を歩いていた。

アレンの部屋の前を通りかかった時、扉が僅かに開いていることに気付く。

中から、師匠の低い声が聞こえた。

「……そんなにマナが大好きだったか」

足が止まる。

部屋を覗くつもりはなかった。

けれど、動けなかった。

ベッドの上で、アレンは膝を抱え、顔を伏せていた。

師匠は寝台脇の椅子へ座り、煙草も吸わずに彼を見ている。

アレンの身体が、小さく震えた。

返事はない。

答えられるほど、喉が戻っていない。

けれど、その震えだけで十分だった。

師匠は暫く黙っていた。

やがて、低い声で続ける。

「……あいつの口癖、覚えてるか」

アレンが、僅かに顔を上げる。

腫れの引ききらない左側の顔は、痛々しいほど赤く残っていた。

けれど、その瞳に涙はない。

泣くことさえできないまま、ただ師匠の声へ縋るように、じっと見つめている。

師匠は背もたれへ身体を預け、目を伏せた。

「立ち止まるな」

静かな声だった。

「歩き続けろ」

アレンの目が、僅かに見開かれる。

「それが、あいつの言葉だったんだろ」

沈黙が落ちた。

アレンは、声を出さなかった。

ただ、膝へ埋めた顔の下で、細い指が強く布を掴んでいる。

師匠も、それ以上は何も言わない。

慰めることも。

許すことも。

忘れろと告げることもない。

ただ、もう一度歩けと伝えていた。

私は、扉の向こうで息を殺した。

胸の奥が、苦しくなる。

師匠は、アレンを一人にしなかった。

乱暴で、不器用で、容赦がなくて。

それでも、彼が立ち上がるまで、傍に居続けている。

私は静かに踵を返した。

あの部屋へ、今の私が入る余地はない。

アレンの痛みに届くべきなのは、今は師匠の言葉なのだと思った。
/ 537ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp